あまり頻発に旅行に行くわけではないので、ひとつひとつの旅の思い出は強く残ります。
大学一回生。
初めてバスで東京に行き、新宿歌舞伎町で一晩散歩してすごした。
また東京で、仕事を辞めて空白の期間、東京じゅうの本屋を巡りに巡ったことも。
丹後半島。
半島のへりにそって、車でずっと兵庫まで走った。
伊根の船屋、防空壕跡、途中で遭遇した龍神のお祭り、
そしてせまい道を挟んで向こうは日本海!というところにあった小さい公園。
ブランコをこいだら海に飛び込んでしまいそうなぐらい近かった。
岡山。
岡山と兵庫のさかいめあたりの駅で降りたら、次の電車まで二時間近くあって途方に暮れた。
四月か五月か、ちょうど桜が散りはじめていた時期で、
ホームの向こうの細い川べりでは背の低い桜がたえまなく花を散らしていた。
静岡。
台風とともに鈍行で行った。
途中乗り換えの駅で時間があったので、海の方まで歩いた。
昼間なのに霧が濃くて薄暗く、しじゅう小雨が降っていて、
灯台や防波堤は陰気で、やたら派手な服を着ていた私とsさんは、
後から写真を見て笑ってしまった。
住宅地の真ん中に線路が走っていて、その両脇の花も南国のように派手だった。
下関、終電近い車窓から見えた花火大会。
博多の喫茶店、久留米に向かう電車から見た黒い土。
和歌山、明け方、目が覚めるたびに違う風景があった。
いかつり漁船の遠い灯り。釣り人でいっぱいの埠頭。
胴体に風穴の開いた巨大岩。誰もいない日帰り温泉。
鳥取、地元の人ばかりのビーチ。テトラポットから見えた風力発電の巨大な風車。
高知、本当の真っ暗闇の四万十川で寝そべって、数分に一度は流れ星が見えた。
名古屋に行くと何かとよく食べる。からっとした街やなあと思う。
丹波、田んぼの道を縫って行った、何にも無い所にいきなりあった岩茶のお店。
(思い出=もう過ぎた事に感傷以外の意味は無いのかと言えば、
強ーく心に押されたハンコのようで、そのふちをなぞるだけで時間を意識したり、
その時間から隔たった今の時間に目を戻せば、
生きてる事への肯定感になるのかもしれない。
つまりはこれが欲しいのかもしれない。と、思った。)
